日本水大賞委員会・国土交通省が主催する「第18回日本水大賞」において、当法人の申請活動「地域協働で水の都・三島の水と緑のネットワークを創造」が「環境大臣賞」を受賞しました。
6月21日(火)には、秋篠宮同妃両殿下御臨席のもと、日本科学未来館(東京都江東区)において表彰式・受賞活動発表会が開催されました。
20年以上のグラウンドワーク活動によって、「水の都・三島」の水辺と生態系の再生に大きな実績を上げており、地域協働による水と緑のネットワークづくりの模範として高く評価され、環境大臣賞を受賞することができました。
受賞活動の概要は下記のとおりです。
⇒日本水大賞「環境大臣賞」受賞活動集(PDFファイル)
============================
第18回日本水大賞 環境大臣賞
地域協働で水の都・三島の水と緑のネットワークを創造
NPO法人グラウンドワーク三島
専務理事 渡辺 豊博
1.はじめに
静岡県三島市は古くより「水の都」と呼ばれ、市内各所で富士山の湧水が噴出する豊かな水辺自然環境を有していた。しかし、昭和30年代半ば、上流地域での産業活動の進展や生活環境の変化によって地下水が減少し、特に、市内最大の湧水河川である源兵衛川は、ゴミが捨てられ生活雑排水が流入するドブ川と化してしまった。
そこで、「水の都・三島」の原風景・原体験を再生・復活すべく、平成4年に「グラウンドワーク三島」を設立し、英国発祥の市民・NPO・行政・企業のパートナーシップによる環境改善を目指すグラウンドワークの手法を日本で最初に導入し、市民内発型の市民活動を開始した。
当会が市民・N PO・行政・企業の「調整・仲介役」となり、実践的な地域環境改善活動に取組んだ結果、源兵衛川には豊かな水辺自然環境が蘇った。その後、23年間以上にわたり、自然環境保全活動や環境教育活動、環境コミュニティ・ビジネス等の多様な活動を実施し、相互にメリットを甘受できる共存共栄の新たな「地域協働」の仕組みと、具体的な現場モデル・実践地を60箇所以上も創りあげてきた。
事業の推進にあたっては、自然観察会やワークショップ等を通して、関係者の合意形成に多くの時間をかけ、地域住民が、主体的に身近な環境を守り、育てていける、地域協働の体制になるように工夫・調整してきている。
現在、当会は、20の市民団体(構成約6,000人)が参画し、150人以上の個人会員から構成され、企業200社、三島市や静岡県、地域ボランティア( 延べ40,000人)等が活動に参加している。これらの活動は、「右手にスコップ・左手に缶ビール」の明快で楽しいスローガンのもと、地域の多くの人々の実践的な参加により進められている。
身近な生活環境の中で発生した地域課題に対して、市民自身が傍観者になるのではなく、積極的、具体的な形でその地域課題に取り組み、具体的な小さな成果、実績を残すことにより、市民自身に誇りを取り戻して、街への愛着の気持ちを醸成する「自立と自発への心の変革運動」といえる。「議論よりもアクション」「走りながら考える」が行動指針・規範であり、課題解決に市民が、主体的・自主的に取り組む、現場主義の「大人の学校」づくりに留意している。
2.主な活動内容
現在、原点となる源兵衛川の活動を、さらに発展させ、三島市の外縁部にある、松毛川や境川の2河川においても、河川の環境改善活動に着手してきている。
これらの活動によって形成・増幅された自然環境を、「水と緑のネットワーク」として、有機的に連結させることにより、生物多様性の強化と生きものたちの生息域を向上させることを目指している。
(1)源兵衛川「ふるさとの川づくり」
源兵衛川は、三島市の中心市街地に位置する全長1.5k mの農業用水路・都市河川である。昭和30年代半ばから深刻な環境悪化が進行したが、平成2年以降、市民による年間50回以上の地道な環境改善活動と住民参加の計画づくり、補助金の導入等の総合的な取り組みにより、中心市街地に豊かな水辺自然空間が復活して、多くの市民の憩いの場となっている。
当会では、日々の実践的な環境改善活動と並行して、新たな地域協働による生物多様性を保全・強化する活動にも着手してきている。具体的な活動としては、源兵衛川の継続的な環境モニタリング調査の実施や外来種の除去と在来種の導入による希少種の生息環境の再生活動等を継続することにより、ホトケドジョウ(静岡県レッドリスト絶滅危惧ⅠA類/県東部)やゲンジボタル、カワセミが多数生息し、一度は源兵衛川から姿を消したミシマバイカモ(三島梅花藻/環境省レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類)の群落が復活・自生する、多種多様な生きものが生息する自然度の高い河川が創出されている。
近年では、静岡県による電柱地中化工事により、中流部に生コンクリートが流され、ホトケドジョウ等の水生生物が大量に死滅したり、最下流部・中郷温水池の水面が外来種ホテイアオイで覆われたり等の環境被害が発生したが、生態系専門家との協働による現地調査や、市民との人海戦術による迅速な除去作業等に取り組み、その環境被害を最小限に食い止めた。
また、ふるさとの川づくりを担う、多様な人材育成にも力を入れている。平成16年度からの「リバーインストラクター養成塾」では市民延べ100人を育成した。その他にも、「エコインストラクター・富士山湧水インストラクター養成塾」も開講し、参加者のフォローアップ研修も実施している。平成21年度からは、子ども対象の「環境出前講座」を本格的に展開しており、平成26年度は、三島市教育委員会や企業から高い評価を受け、水辺再生や生物多様性を学ぶ現場体験型のプログラムを延べ39回開講し、受講者計2,211人を集めるまでに発展している。
現在、源兵衛川の環境改善活動は年間15回以上にも及び、経費的には300万円を要し、環境教育活動を含めて、参加者は年間延べ3,000人を数え、視察者も国内外から100団体以上、1,500人もが訪れている。
(2)松毛川「千年の森づくり」
松毛川は、源兵衛川の最下流域に位置する、狩野川流域に唯一残された6haの止水域である。両岸には、狩野川の原風景であるエノキ等による1,300本の河畔林が広がり、樹齢100年以上の巨木が130本以上も残存する貴重な旧河川敷である。しかし、土地所有者の高齢化と農地の放棄により、河畔林周辺は繁茂した放置竹林に厚く覆われ、風雨や老齢化による倒木も発生して、大切なふるさとの森が消滅の危機に瀕していた。
そこで当会では、松毛川を「千年の森」と位置付け、平成15年から地域協働による環境改善活動を実施してきた。これまでに河畔1.5kmにも及ぶ竹林伐採や潜在自然植生の苗木4,500本以上の植樹、外来種ホテイアオイの駆逐、2tトラック数十台分以上のゴミの除去、松毛三日月会等地元愛護会の結成、自然観察会の開催、大学生の現場体験や企業のCSR活動の場としての活用、国の治水対策等補助事業導入の提案を進めてきた。参加者は年間延べ500人にも及び、経費として年間、500万円程度を助成金や補助金を活用して投入している。
現在、当会の活動が広く広報され、多くの市民が松毛川の存在と川と森の貴重性を認識し始めている。また、3年後に国の治水事業(約5億円)の実施が予定され、当会の「千年の森づくりトラスト」運動による河畔林の買収、さらに、三島市による周辺部の買収と親水公園化事業の計画策定等も現実化し始めている。10年以上にわたる、ノコギリとゴミ袋を持った、当会の地道な環境改善活動が、「千年の森づくり」へと力強い道筋を進み始めている。
(3)境川「富士山・境川大湧水公園構想」
境川は、三島市と駿東郡清水町の境を流れる一級河川である。中流部の左岸に位置する「境川・清住緑地」は、市街地の中にありながら、豊かな森、富士山水系の湧水池、水田が点在する約8,500m2の自然度の高いビオトープ公園であり、平成7年から平成12年の間、当会が環境整備計画の策定と関係機関の調整役を担ってきた。
完成後は、地域住民による「境川・清住緑地愛護会」が公園の維持管理を担い、原風景である低湿地の自然が復元・保全され、多様な動植物が生息し、水田での稲作体験等、三島市立西小学校の環境教育園としても活用されている。
なお、平成27年、湧水を水源とする複数のコンクリート池を有する南隣の養魚場跡地約3,000m2を湧水公園として活用する当会の提案を受け、三島市がその土地を買収し、さらにそこに隣接する清水町側の養魚場跡地約8,000㎡を含めて大湧水公園として拡大・整備していくことになった。
この協力体制の整備を受け、当会では、両エリアと境川右岸に位置する農業用ため池「丸池」を含めた全体約3.0haを、全国に誇る「富士山・境川大湧水公園」とすべく、環境基礎調査やワークショップ、ワンデイチャレンジ等の「エコロジーアップ(生態系の強化)」、子どもから大人までの新たな地域人材の発掘と地域協働による持続的な維持管理体制の構築を進めてきた。
毎年、愛護会を中心として300人以上の地域住民が主体的な管理に関わり、子どもたちも年間11回・延べ800人が「田んぼの楽校」を体験している。経費的には三島市からの愛護会への委託費63万円と当会の50万円程度が投入されている。
これら20年以上にわたる湧水池の環境改善活動がきっかけとなり、現在では、三島駅から柿田川までを巡る水と緑の散策路として観光客から好評を得て、年間5万人近い来訪者が訪れる、水と緑があふれた人気の観光スポットになっている。
今後は、新たな湧水池との一体的・広域的な川と緑の整備計画の策定を進め、富士山の湧水の美しさと川の多様な魅力を体験・実感できる、「大湧水公園構想」の実現に先導役として取り組んでいく。
3.活動の効果・社会への波及効果
- 松毛川・境川・源兵衛川での環境改善活動によって、希少種をはじめとした多様な動植物が生息する豊かな環境が創出され、生物多様性が向上し、ふるさとの原風景・原体験が復活した。
- 源兵衛川は、「水の都・三島」を代表する観光スポットとしての役割・牽引力を発揮しており、来街者や街歩きの観光客の急増や、それに伴う中心商店街の空き店舗の解消等、「環境再生」が「地域再生・観光振興」に拡大・発展している。
- また、子どもや市民にとっての生きた環境教育の場として活用することで、生態系に関する的確な知識が浸透し、次代のふるさとの川づくりを担う「人材育成」の場として、教育的波及効果を担っている。
- 三島市の中心市街地(源兵衛川)と外縁部(松毛川・境川)に豊かな環境が創出されることで、それぞれが有機的に結びついた「水と緑のネットワーク」が形成され、点が線で結ばれ、面として拡大・広域化して、より活発で回遊性の高い人の流れや相乗的な生物多様性保全効果を生み出している。
4.活動の今後の計画
- 子どもや地域住民、市民と共に、「水の都・三島」の原風景であるふるさとの森、水辺、富士山からの湧水池の実践的な環境改善・環境再生・生態系保全活動を継続・実施して、生態系コリドーを創出すると共に、次世代の人材育成を踏まえた、地域の子どもたちへの実践的な環境教育・体験学習の場としての活用を展開していく。
- 毎年、300人近い大学生のインターンシップを受け入れていることから、来年度以降に「地域再生実践大学」を開校して、多様な現場モデル・成功モデルのマネジメントやビジネスのノウハウを学術的・専門的・生態学的・現場学的・体系的・包括的に学べる場づくりを進める。
- 川や森の再生、生物多様性の強化等の環境再生が街の経済的な振興に連動・拡大していく、当会の成功モデルを例示することによって、未利用・未開発のために埋没している地域資源の大切さと付加価値の高さ、発展の可能性への再評価を高め、ふるさとでの元気人の輩出を後押しする、革新的な社会実験に持続的に取り組んでいく。
三島産新銘柄米「ゆめみしま」のご購入はこちら
「2020年アジア都市景観賞」を受賞しました。
2024年11月18日「能登半島被災地支援・ショートツアー参加者にゆめみしまをお届け」「富士山『登山』方式断念へ」の記事を掲載
グラウンドワーク三島のfacebookページ
グラウンドワーク三島のインスタグラムページを開設しました!
イギリス&日本・自然環境回復の処方箋~グラウンドワーク~
A story of Genbegawa
2021年8月26日「三島梅花藻の里」の定例整備作業
2021年9月16日「桜川川端」の整備作業
2021年8月28日「鎧坂ミニ公園」の整備作業