「仕事」って何だろう?

 内閣府「地域社会雇用創造事業」の1期・Aコースが、平成22年8月2日から始まり、6日に終了した。全国27都道府県から、総勢210名ものNPO・ボランティア関係者や若者たちが、静岡県三島市の日本大学国際関係学部の会場に参集した。

 

 グラウンドワーク三島が、この20年間にわたり、蓄積してきた多様な現場モデルを学びながら、NPOの組織強化のマネジメントやNPOを市民企業と見なしての起業化のためのノウハウなど、先進的な知識や新たな実践力、応用力を身に付けた。

 

 とにかく、現場に出ての実学や室内での座学、グループ討議、交流会、質疑応答など、どの機会を通しても非常に熱い、真剣な議論や討議が展開された。

 

日頃の活動を通して感じている悩みや苦労、不安、懸念、迷いなど、本気で本音の発言が相次ぎ、会話が会話を相乗的に誘発する感動的な議論が展開された。

 

 私も、自分の講義を含め、何回も参加者の前で自説をお話させていただいた。しかし、今までに、こんなに真剣に熱く、私の話に聞き入っていただいた経験が少なく、思いもよらぬ反応に驚いている。

 

 よく、NPOは、「馬鹿らしくて、あほらしくて、儲からない仕事だ」と言われる。それでは、NPOやボランティアに関わっている人々が、何故、こんなにも非生産的で他人に褒めてもらえない仕事を、満足な給与ももらえずに、時間や精神的・金銭的負担、家族からの批判、他人からの中傷などを受けながら、耐え、活動や仕事を続けているのか、いこうとしているのであろうか。

 

 私も20年間にわたり、三島ゆうすい会やグラウンドワーク三島、富士山クラブなどの市民活動団体に関わり、活動や組織の主要なマネジメントの部分を担ってきたし、いや、現在も、富士山測候所を活用する会などの運営なども新たに担っている。

 

 しかし、今までも、今も、いわれなき、理不尽な批判や誹謗中傷を、多様な主体者から受け続けており、何ともいえない重苦しさを感じ、悩みは尽きない。特に、折々に意気投合し、共有の夢を語り合い、同士としての永遠の絆を交換したはずの人々からも間接的で遠まわしの批判や誤解を受け、さらなる精神的な負担とダメージは大きい。

 

 こんな苦労や重い十字架を背負いながらも、何故、お金にもならない仕事を続けているのか、私自身も不思議に感じている。しかし、今回の研修内での参加者の発言から、その理由が僅かながら解けた。

 

 やはり、「他人のために働くことの達成感や充実感が得られる仕事だから頑張っていける、頑張ろうとしているのではないか」と感じた。お金・給与の程度だけでは、人は自分が任せられた仕事に永遠に満足できないのではないのか。

 

 参加者の声として、「自分も自殺経験者だから自殺者防止の仕事を起こしたい。自分の子どもが障害者だから障害者のための自立施設を起こしたい。ふるさとに若者を呼び戻したいので、自分がふるさとに帰りお店を起こしたい。荒れた山々をトラストして、鳥たちとの共生ができる山村振興に取り組みたい。津波回避のためのシェルターを広めたい。宅老所と保育園を併設した施設を起こしたい。キャリアを捨てて農業の再生に取り組みたい。」など、彼らの創業への夢と挑戦は、限りがない。

 

 現在、仕事に就いている人々も、日々の仕事に疲れ、何のために働いているのか不安になり、自分を見失い、自信を無くし、将来の道筋が描けず迷っている人が多いのではないか。しかし、今回の参加者の現実的な状況は、皆、同様の課題を抱えた人々だと思う。なのに、彼らの次なる意思や仕事への取組み姿勢は、社会性・公益性にあふれ、献身的で勇気のある考え方で敬意を賞する。

 

 普通なら、未就業者で自分の生きる方向性すら明確に決められない、迷える子羊程度のいい加減な人間と見られても仕方がない境遇の人々である。しかし、彼らの将来の仕事に対する考え方は、社会的な弱者のために自分を犠牲にしてまでも働きたいと考えている人々なのだ。

 

 これほどまでに、社会の歪に隠された社会的な課題に対して、勇気と情熱を持って取り組もうとする、若者や女性、高齢者が、全国各地に存在していることに改めて驚いた。強い問題意識や新たな組織と仕事を創りだそうとする意思と意欲は、人を強くして、自分が求めている、自分に適合した仕事とは何かを暗示していると思う。

 

 今の仕事が合わなくなり、新たな仕事を給与や処遇、福利厚生など労働条件により探そうとする人は一般的だ。その考え方は、否定しないが、そんなことではなく、「自分自身の特性や特技、専門性、将来の夢」などをもう一度、見つめ直してみて、その中から、何が今、取り組まなくてはならないことなのか、明確にすることが大事だと思う。

 

 自分に合わないと潜在的に感じている仕事は、もしかすると、給与や環境が良くても、長い間には満足できなくなってしまう。何事も自分の特性や個性が、より以上に活かされ、発展的な今後の人生を切り拓いていける経験知として、蓄積できるような仕事を見つけることが大切である。

 

 しかし、現実的にはお金を得て、生活を守っていかなくてはならないわけだから、今の仕事も、いろいろを我慢しながらも、ある期間は続けるべきだ。そして、次なる仕事に向けて、資格の取得や専門性の研鑽、NPOやボランティア活動の体験、多様な人々とのつながり、自分自身の見つめ直しなどに前向きに取組む、長期的で戦略的な人生設計が必要とされる。

 

 人生は長い。現状の不満足状態に負けずに、積極的にいろいろな場所や現場に出かけて行き、自分の可能性や問題意識を明確化してもらいたい。今回の研修生のように、厳しい環境の中においても、困難を乗り越えて、他人や地域のために働きたい、創業したいと希望している人々が、世の中には、沢山いて頑張っていることが分かった。何事も上手いき、満足している人は、世の中には少ないと思う。現在の自分の境遇に不満や不安を抱いても、何も解決しない。

 

 グラウンドワーク三島の職員も、今回の事業を成功させるために、長く残業が続いた。献身的な仕事ぶりとチームワークにより、1期目は、上手く乗り切れたと思う。しかし、この苦しく、疲れる仕事の連続と経験を、今後、彼らがどのようにとらえ、活かしていくかが問われている。

 

 「不平不満を優先するのか。貴重な体験ととらえるのか。自発的な仕事への取組みを学べる機会とするのか。過酷な労働に過ぎないと考えるのか。」など、いろいろとあると思う。私なりの期待と解釈としては、主体的で懸命な取組みを進め、それが成功して好結果を生み出したのだから、絶好の密度の濃い勉強ができたと考えてもらいたい。

 

 これこそが、仕事の「醍醐味」であり、仕事を通して自分自身の能力的・精神的な強さを育成していく「経験知」になるものである。熱き、人々の新たな仕事に対する、情熱的な意見や考え方を聞いて、私自身も、今後の自分の仕事への取組み姿勢を見つめ直す、絶好の機会になった。

 

 後、10年、70歳をイメージして、私自身が、将来的に、どのような仕事に携わっているのだろうか。私も迷える子羊として、今後とも引き続き、いろいろなことに迷い、苦しみ、さらなる経験知を蓄積して、挑戦的な自分の問題意識に適合した仕事に就いていたいと強く考えている。

2010/8/8 9:44 ( メイン )
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