世界文化遺産登録・富士山再生に難題が山積み

 本年、6月中旬に富士山が「世界文化遺産」に登録されることが確実視されています。地元の静岡県や山梨県、周辺の市町村、さらに観光業者などは、登録後の国内外からの観光客の増大や観光振興の拡大に過大な期待を寄せています。


ところで、「日本の宝物」である富士山が、「世界の宝物」になることは、富士山の今の環境問題がグローバルスタンダード(世界的環境基準)により「比較・評価」されることを意味しています。地元では、世界文化遺産センターをどの場所に建設するのかなどの誘致合戦が活発化していますが、このような利益誘導を優先した考え方は、世界文化遺産登録の主目的から逸脱した的外れな行為だと思います。


現実の富士山の山体自体が、文化的、自然的な価値の融合により評価されるものであり、その「類まれな価値」の存在感が富士山を世界文化遺産に登録する意味だといえます。今回の登録の根拠は、富士山がもつ「信仰」「芸術」「景観」の3点です。私の見解では、これらはすべて「過去からの評価」であり、厳しい環境問題が存在する富士山の現実と事実を踏まえた「現在の評価」を的確に内在したものになっていないと考えています。


すなわち、今、活発化している富士山の世界文化遺産登録のための運動・対応方法については、長期的視点に立った「包括的管理基本計画」の策定に関わり、多様な人々との議論や検討を踏まえてまとめていく「プロセス」が脆弱だと強く感じています。


「登録のための登録の運動」は、形や器を創ることに過ぎず、最も大切なことである、地域住民の富士山に対する拘りや思い、誇りなどがほとんど介在しない、役所主導の画一的な形式主義の中味になっているのではないかと危惧しています。


富士山の魅力と価値は、深淵であり複雑多岐の不思議にあふれています。地元の人々は、もつと数多く富士山の四季折々の現場に入り込み、「過剰使用の実態や生活ゴミの放置、産業廃棄物の放棄、し尿の垂れ流し、荒廃森林の拡大、地下水の減少と汚染」など、富士山の環境問題の実態・影の部分も正確に把握・学習する必要があります。


本当の富士山の実態を両県民が、充分に理解せず、形式的な世界文化遺産登録だとしたら登録に何の意味があるのか、登録後、さらに厳しい国際的な評価により富士山が判断された時、例えば、「自衛隊や米軍が実弾を富士山に向け発砲していること。富士山の裾野で軍事訓練が日々実施されている事実。産業廃棄物が放置され続けている事実。し尿の垂れ流しの実態」などが、動画サイトで世界中に送信された時、富士山に対する海外からの評価は、一体どうなってしまうのでしょうか。恥の遺産といわれている「危機遺産」に格下げされる懸念も想定できます。


こんな懸念を表明しても、すでに手遅れなのかもしれませんが、今回は、富士山の世界文化遺産登録を「延期」して、今後、10年近くの時間を積み重ねて世界に誇れる、日本人の「共生の知恵」を結集した「包括的管理基本計画」や「富士山再生アクションプラン」を、市民・NPO・行政・企業・専門家・子どもたち・大学生などとともに策定することが、まずは求められていると思います。


「グラウンドワーク三島」としても、本年、富士山の世界文化遺産登録のタイミングにあわせて、富士山周辺に住む地元の専門家や環境NPOなどが参集した「富士山総合研究所」(仮称)を開設しようと考えています。


そこで、富士山の環境問題を解説した「富士山黒書」の策定や富士山の総合的な保全法となる「富士立法」の提言、縦割りを解除した包括的な国の機関となる「富士山庁」の創設、改廃が進む湧水池の保全など具体的な環境保全活動の展開などについて実現していきます。


以下、ある機会にまとめた富士山の世界文化遺産登録への懸念を記述しておきます。

 

 

 『現在、富士山を訪れる年間の観光客数は5合目に300万人、山頂への登山者は30万人、1日に1万人以上が登山する世界に類を見ない「無秩序な山」になっている。

 

 これは、富士スバルラインなどにより5合目まで車が行けるようになったことに起因しており、観光振興を優先して自然保護への配慮や「信仰の山」としての宗教性などを軽視した経済優先主義がもたらした「負の遺産」といえる。

 

 しかし、現在、富士山の世界文化遺産登録への作業が進行し、夏のイコモスの現地調査が終わり、来年6月での登録を目指している。本当に、富士山は世界文化遺産として登録が可能な「前提条件」や国際的な「環境基準」を満たしている山なのか、現場での未改善の実態を踏まえ多くの懸念を抱いている。 

 

 地元では、登録後への経済効果を強く期待しているが、美しい富士山を、どのような「セフティーネット」を構築して次世代に引き継いでいくのか、その総合的・長期的な政策立案と課題解決への具体的な仕組みづくりなどは不充分といえる。

 

 世界遺産登録の目的は、「開発の抑止」であり、現在の利害者に多くの制約が新たに課せられることに合意した「覚悟」の証でもある。現在、行政主導の登録運動が進行中だが、50年後、100年後の富士山をどのように守り、伝えていくのか、市民・NPO・行政・企業・専門家など、多様な視点からの議論と検討の場が求められている。

 

 富士山は、1年後の登録を拙速にめざすのではなく、少なくとも10年先を見据えた着実な取り組みが必要不可欠である。

 

 例えば、管理体制の一元化を担う「富士山庁」の創設(富士山は静岡県と山梨県の2つの県と10の市町村にまたがり、国の管理者も文化庁、環境省、林野庁、防衛省など複雑化しており包括的な責任者が不在)、富士山圏域の総合的な管理規範である「富士山立法」の制定(文化財保護法、自然環境保全法、森林法など多様な法律が重層的に重なり合い超越的な法律が無い)、環境保全対策のための「入山料」の徴収、持続可能なセーフティネットとなる「包括的管理基本計画」の策定、専門性を持つ「総合調整役NPO」の設立など国民の英知を束ねた市民主導の仕組みづくりが求められている。

 

 今後、富士山の世界文化遺産登録を通して、日本人の環境に対する「共生の知恵と行動」が試されている。環境と観光が共生した新たな環境再生と地域再生のあり方を模索しながら、秀麗なる富士山を次世代に確実に伝えていけるように、多様な問題を国民間で共有し着実に解決していくことが「先決」である。』

 



さて、これらの多種多様な事実を理解した上で、皆さんは、富士山の世界文化遺産登録について、どのような感想や考え方、疑問、提案をお持ちになりますか。ご意見がありましたら、グラウンドワーク三島の代表メールにお知らせください。大学で「富士山学」を講義している私としても、参考にさせていただければありがたいです。


お分かりの通り、私は、「富士山大好き人間」であり、中学校2年生以来、60回以上も富士山に登っている富士山拘り人間です。過去、「富士山クラブ、富士山エコネツト、富士山測候所を活用する会、富士山を世界遺産にする協議会、富士山を世界遺産する国民会議」に事務局長などの立場で関わってきました。また、アメリカやニュージーランドなど10箇所もの世界遺産に登録された国立公園も現地調査に赴いています。


とにかく愛すべき富士山を世界の環境基準に比較対照して「見劣りするまま、多様な環境問題を抱えたまま」登録されることに対して、忸怩たる思いを強く感じているのです。私自身も再度、関わりの意思を富士山に向け直し、富士山再生への取り組みを強化していくつもりです。ご支援・ご協力のほど、よろしくお願いいたします。引き続き、富士山の今の「光と影」を発信し続けます。

 

2013/1/4 0:00 ( メイン )
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