「心を元気にするショートツアー」を終えて

 東日本大震災の被災地の被災児童や被災家族の皆様を、2泊3日、伊豆の温泉や三島の水辺、富士山の裾野に招待する、「心を元気にするショートツアー」を5月8日に終えた。この企画や事業をともに進めた「NPO法人伊豆どろんこの会」のメンバーやグラウンドワーク三島のインストラクター・スタッフ、各行政機関、支援金や物資、お土産を提供していただいた多くの関係者に深く感謝する。

 

 今回のツアーは、4月15日より連休を含めて5月8日までの4回(4/15〜17、4/29〜5/1、5/3〜5、5/6〜8)実施された。参加していたたいた被災児童や家族の数は、約230人にものぼり、このうち、児童は、2歳の幼児から高校生までを含めて、全体の5割になる。参加していただいた地域は、宮城県石巻市の皆様が3回、福島県いわき市の皆様が1回である。

 

 2地区とも、地域は壊滅的な被害を受けており、いまだ、両市の避難所で1か月以上、避難生活を強いられている被災者の皆様である。この2地区が選定された理由だが、4月1日から10日間にわたり、約3200kmを3回にわたり走破し、福島県郡山市・伊達市・田村市・いわき市、そして、宮城県石巻市、東松島市などの被災地を回り、行政やNPO関係者、さらに被災者の皆様と直接的に会い、今、何が最も支援活動として必要とされているのかについて、生の声、本音の意見などを個人的な厳しい事情も含めて、直接的に聞いてきた。

 

 その結果、多くの被災者から、「子どもたちに精神的、肉体的な重圧や負担が過渡にかかっており、今後の行く末や心の問題などに対する対応策がわからず、戸惑っている」との意見が多く聞かれた。当然、幼児などを抱える親子は動きが制約されて、被災家族全体が将来的な不透明感を含めて、目に見えない不安に苛まれている現実を実感した。

 

 また、物資やインフラなどは、整いつつあるが、今だ、「お風呂に時間制限なくゆっくり入るとか、温かいご飯や味噌汁をお腹一杯食べるとか、家族団らんで白い布団で寝るとか、思いっきりテレビを見るとか、大声で兄弟げんかをするとか、友達と自由に野外でサッカーを楽しむとか、あのヘドロの悪臭から解放されて深呼吸するとか、臭いのしないきれいな便所に入りたいとか」、私たちの日常生活では当たり前の生活スタイルがままならず、「悔しい・辛い・悲しい・懐かしい」などの意見、要望が出た。

 

 そこで、グラウンドワーク三島では、被災者の心のケアに支援の重点を置き、とにかく、あの過酷な現実から、しばらくの間、逃避してもらい、伊豆の素晴らしい自然環境の中に身を置いていただき、当たり前の日常生活を体験することにより、元の元気を取り戻し、再度、ふるさとでの復興や再生に臨んでいただくための「心の応援団」としてのツアーを企画した。

 

 募集は、石巻市は、石巻日日新聞社との協働事業に位置付け、記事掲載によって参加していただいた人たちである。いわき市は、湯本高校に避難なさっていた、久之浜地区の皆様を中心として、避難所での呼びかけで賛同していただいた人たちである。

 

 実際に実施した「成果・効果」だが、前後において、見違えるように顔つきや態度、雰囲気が変わってしまうことを何回も実感した。三島まで来る間のバスの中の被災者の雰囲気は、何か、重く、固いものがあり、子どもたちを含めて、静かでおとなしく、いろいろなお願いを素直に聞いてくれる。私の感じでは、日々、避難所で抑圧された集団生活を強いられていることから、子どもらしく「はしゃぐ、甘える、泣く、無理を言う、愚痴る」などの動きがほとんどできず、殻の中、心の奥底に本音が封印・蓄積されているのではないかと感じた。

 

 しかし、1日目で伊豆長岡温泉の露天風呂や大浴場にゆったりとつかり、おいしい料理を食べ、大人たちは、これは私の担当だが、お酒を飲み、悲しい現実を語らうと、翌日は、精神的な重圧や不安がすっかり解消され、各人の顔つきに生気が戻り、子どもたちの笑顔がはじけ、兄弟げんかも聞こえるようになった。

 

 さらに劇的な変化は、多く、2日目に訪れた。函南町の酪農王国オラッチェでアイスクリームづくりを行い、韮山や江間でのいちご狩り体験、さらに、みしまプラザホテルさん提供の豪華な昼食を済ますと、久しぶりの親子水入らずの時間を過ごすことから、各家族間での会話も弾み、子どもたちも精一杯、お母さんやお父さんに甘え、ゆっくりとした時間を楽しんでいる姿が見られた。まさに、久しぶりの家族旅行の設定かとも感じた。

 

 また、源兵衛川の水辺体験では、水の中で、子どもたちが川遊びや魚とりを楽しみ、大人たちも冷たい水につかり、久しぶりに気分転換になったと、大変、喜んでくれた。水辺再生のために、10年間以上にもわたり、市民が主体的・創造的な努力を続け、多様な知恵を結集して、自然環境の再生ができたことを伝えると、被災者の皆さんが、その努力に敬意を表していただくととともに、自分たちも、具体的な「再生・復興」の到達点、目標のイメージが理解でき、勇気と元気、自信をもらうことができたとの感謝の意見もあった。

 

 2日目の夜は、子どもたちを中心としたお楽しみ会を実施した。お笑い芸人やバルーン、手品などが披露され、歓声と笑いが渦巻き、本当に楽しい時間を過ごしていた。大人は、美顔エステやマッサージのサービスの提供を受け、美しさを取り戻し、体の疲れも癒された。3日目の早朝は、子どもたちを中心として、サッカー交流を行い、精一杯の汗を流し、久しぶりの運動に爽快な顔を見た。

 

 このように、グラウンドワーク三島と行政の対応の違いはなんだろうか。私は、人と人とが直接的に会い、話、思いを真摯に交換・交流することにあるのではないかと思う。一方通行の形だけを用意した支援活動では、持続的な地域や人々との交流はあり得ない。参加者はすべて被災者であり、とてつもない深く悲しい重荷を抱えている。人と人との会話や交流、意思疎通がないとしたら、被災者だけで、その重荷に耐えていかなくてはならない。解決や軽減の道筋が見つけられないと思う。

 

 今回のツアーには、延べ150人以上もの支援者・ボランティアの皆様が参加していただき、多様な活動を支えてくれた。特に、被災者との何気ない会話が、悲しみを封印していた被災者の気持ちを和らげるために、大いに役立った。おいしい料理や美しい水辺、富士山の景観、温かい温泉も被災者を元気づけるが、やはり、人が人と接することで思いを交換、交流することが、精神的・肉体的なケアや癒し、解放につながることを実感したし、今回のツアーの意義・意味・社会的波及効果も理解できた。

 

 私も、夜の宴会を担当して、多くの大人たちと夜遅くまで語らった。とにかく沢山のお酒を飲んだ。各人の話は重く、悲しく、切なく、聞いているだけでも辛かった。しかし、翌日、本人の顔を見てみると、すごく明るく、何かが、吹っ切れたような雰囲気を感じた。肝臓を酷使したが、少しは、お役に立ったのかなと感じている。

 

 帰路につく3日目には、子どもたちからジャンボと気軽に呼ばれ、帰り際には、「あまり酒さあ飲むなあ、元気でツアーを続けてけれ、あまり無理すると体を壊すから酒は減らせ」など、こちらを気遣うメッセージを受けた。

 

 今後は、6月からこのツアーを月に2回程度で再起動させるとともに、大学生の派遣による出前寺子屋教室の開講や病院ツアーの企画、中期でのスポーツ合宿交流、石巻市へのグラウンドワーク三島の活動拠点の開設などを推進していく予定である。

 

 現在、参加者による口コミにより申込みが絶えない。この状態では、1万人、2万人の被災者を、三島や伊豆地域に招待することができる。このツアーは、被災地への一方的な支援の形態ではなく、活動費の6割は、地元にお金が落ちることにもなり、ゆるやかな資金循環、経済的な効果も期待できる。

 

 今後、今回のツアーのような経済的にも効果があり、持続可能な仕組みを作らなくては、支援活動は途切れ、思い付きになってしまう。行政も私たちの力と特性を理解して、連携や活用の方策、さらには、補助制度の制定など、NPOと連携した新たな支援活動のあり方を検討していただきたい。

 

 今回の4回のショートツアーで、約600万円の経費がかかる。これらの経費のほとんどが、多様な支援者からの募金やグラウンドワーク三島による支援金によって支えられている。日本赤十字社などの義捐金がいまだ、被災者にいきわたっていない中で、今回のショートツアーのように、実効性や有効性の高い、グラウンドワーク三島の活動を、ご理解していただき、支援金への募金、ご協力をお願いする。

2011/5/9 0:00 ( メイン )
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